「コスタリカに軍隊は無い、と言うのは真実ではない。コスタリカには実質軍隊以上ともいえる精鋭部隊さえ存在する」
「国内には米軍基地があり米軍の庇護の下、自国の軍隊を持っていないだけのことだ」
「政治や外交面で完全にアメリカ追随、属国として生存をはかろうと立ち回る狡猾・卑劣な国」などなどの憶測が巷間流布しています。
しかしそれは戦力の永久・完全放棄をうたいながらその実、世界有数の武力を持つ日本の現状もありコスタリカをひたすら美化する私達を幼稚者、空想的な理想主義者に仕立てコスタリカを矮小視したくなる日本人の経済大国意識から来ているのかも知れません。
しかし一方で、シリア内戦などの紛争や戦争の絶え間ない現実を突きつけられると大概の平和主義者が彼ら武力容認派【正義・自衛のための武力は必要】を論破する事がとても難しいと感じるのも事実かも知れません。
コスタリカの平和活動は安倍政権の言う【「積極的平和主義」などと言いつつ“敵地先制攻撃も辞さない「まやかし」の積極的武力行使容認論 ”】とは正反対の外交のみによる紛争解決の実践です。
世の中が右傾化する中、コスタリカは名実共に非軍備を貫く存在として「我々の目指す理想の国の“Living Example”」として益々その存在感が増して来ています。
そうであるならば色々風評のある中、すべては自分の足と目で真実を確かめたいものだ、と日頃漠然と考えていましたがついに昨年2012年3月に約1週間、6ヵ月後の9月に約2週間都合約3週間、その計画が実現することとなりました。
本稿はその2度の訪問を通じて自分の足や目で実際に見聞したコスタリカの事実をごく短くまとめたものです。コスタリカ全土をくまなく網羅する事はとても出来ませんでしたがコスタリカの南北の国境、そして東西の太平洋岸とカリブ海岸の主要な地点を回り一応はコスタリカの東西南北の国の境界を走破することは出来ました。
勿論、結果は私の期待、想像を裏切るものではありませんでした。私服でいても米兵はそれと私には大概察しが付きますが、私の滞在中に米兵の姿は一度も見かけませんでした。
1回目の訪問目的
1)司法関係:最高裁判所を訪問しコスタリカ憲法第12条【常備軍の廃止】の運用実態、憲法裁判所の業務内容、違憲審査の実際、憲法による人権保障につき質問調査
2)行政関係:外務省を訪問し軍隊を廃止したコスタリカのこれまでの国境を跨ぐ紛争の外交による解決の実際についての質問調査
今回の日程のアレンジをしてくれたのは元駐日コスタリカ大使のクリスティナ・ロハスさんでしたが彼女は現在最高裁判所に勤務されています。早速3月13日に外務省政策局長ハイロ・ヘルナンデス・ミリアン博士と面談、コスタリカの非武装中立の中での安全保障の問題についての話を聞きました。その日の夕食には3人の法律家などが参加、アルフレッド・キリノ・サンチェス博士(高等裁判所(フランス法で言う破毀院Cassation)判事で刑事事件の訴訟判事)、憲法裁判の専門開業弁護士のフェルナンド・ザモラ・カステヤノ博士、コスタリカ初代のオンブスマン(OMBUDSMAN)且つ前国会議員であり国連平和大学を創設したCarazo大統領のご子息のロドリゴ・アルベルト・カラソ氏といった面々です。
翌14日には国会の法制局長官の仕事をしている有能な前国会議員グロリア女史と面談してコスタリカの軍備撤廃についてお話しを聞きました。彼女はコスタリカが他の中米諸国と違う事を強調する意味でも絶対に再軍備はしないのだと再三強調していました。その後、最高裁判所でルイス・パウリノ・モラ・モラ長官と面談し憲法裁判所の概要と現状などについて質問、最後にコスタリカ大学法学部副部長マルビン・カルバハル・ペレス博士と面談してコスタリカ大学の沿革、などについてお話を聞きました。
帰国前日には在コスタリカ日本大使館を表敬訪問、大使が帰国中のため臨時大使と1等書記官の両名と面談、現地事情の説明を受けましたが彼らの説明に拠ってもコスタリカの軍隊は存在しない、とのことでした。
2回目の訪問目的は昨年2012年、平成24年9月5日から3日間開催された「イベロアメリカ(スペイン語圏)人権会議」に参加することでしたが会議の前後に前回訪問時に果たせなかった国会審議の見学、国会議員との面談、選挙裁判所見学および開廷中の裁判所法廷見学、刑務所見学、隣国ニカラグアとパナマとの国境、国境警備の実際を視察、内陸部の視察、太平洋岸沿いとカリブ海岸沿いの視察、コスタリカの警察力の調査、先住民を含む庶民との交流、(国連平和大学留学生、コスタリカ日本人学校教職員生徒)などを実施する事でしたが、何をするにしてもどこに行くにしても問題意識の核心は常に①コスタリカには軍隊は本当に存在しないのか、②コスタリカには米軍基地は本当に存在しないのか、を自分の目で確認する事でした。
9月3日(月)サンホセ中心街、選挙最高裁判所に行きましたが大勢の老若男女が選挙投票権のためのID(写真付き)をもらいに来ていました。この国では運転免許証に替わって選挙の登録カードが身分証明書になっているのだそうです。常日頃人々に選挙参加を意識させるための、このIDシステムは素晴らしい、と感心。その後、国会を視察(=写真)のため訪問し記者室に通され議事の合間を縫って多数の有力政治家等とインタビューをさせてもらいました。
9月4日(火)サンホセ均衡のコロンにある国連平和大学を視察し授業に参加、留学生とインタビューを実施し授業にも参加した後コスタリカ日本人学校を訪問、先生、職員、生徒にフルートを演奏しその後、教職員方の悩みを聞いたりしました。
9月5日(水)人権会議初日を迎えましたが9時の開会の少し前に突然地下にある講堂が大揺れに揺れだしこれが震度7.9の大地震で震源地グアナカステはニコヤ半島のニカラグア国境側、であると判明、結局会議初日の日程は中止と決定されました。
9月6日(木)人権会議2日目ですが昨日中止となったため実質初日の会議、午前中最後のスピーカーは昨年緒方貞子さんから国連人権委員会理事長を引き継いだというコスタリカ人のソニャ・ピカド・ソテラさんのスピーチを聞きその後彼女と暫く面談。昼食時にはグアテマラ最高裁の判事ガブリエル・ヒメス氏と日本の自衛隊とコスタリカの違い、米軍基地の問題、日米関係などの話をしました。
9月7日(金)会議の2日目ですが最終日でもありました。最後のパネルディスカッションにはコスタリカ外相が演説しニカラグアとの紛争に際して再軍備はしない、警察力の強化で臨み解決に当たっては国際司法裁判所の判断を待つと言明。
9月8日(土)コスタリカ内陸部、先住民部落の中で比較的サンホセから近郊のキーティリスルの先住民家族を訪問し彼らのための学校、教会、部族宗教の祭場などを見学。彼らはホンジュラスに源流を持つとされる先住民族で、今もカトリックより土俗宗教と祭祀を信奉し食事も独特の料理を受け継いでいますが民族料理などを実際にもてなしてもらいました。
9月9日(日)コスタリカ西部、太平洋岸沿岸のドライブ、コスタリカ人運転手兼ガイドとバスでコロン(UPEACE国連平和大学所在地)を通過してタルコレス川(野生ワニが棲息)、ハコというリゾートビーチを横に見て、マヌエロ・アントニオ公園に到着。一人でジャングルに入って米海軍が航行していないか沖を双眼鏡で注視しましたが何も発見できませんでした。ガイドも米海軍基地などコスタリカには存在しない、と明言していました。
9月10日(月)コスタリカの北部、ニカラグアとの国境ロス・チレスを日本人ガイドの運転で視察しました。(=写真)国境警備の警察官達やその上司を本署に尋ねて色々情報提供を依頼しましたが結局データ入手には失敗、後に知り合いに依頼して警察力についてデータを入手しました。勿論国境に警備兵などいない事を確認しました。
9月11日(火)コスタリカの南部、パナマとの国境の町シクサオーラを視察、ブラウリ・カリージョ国立公園の山(標高2700m)を越え熱帯林やバナナ畑の間を抜けて走りコスタリカ東部のカリブ海沿岸の町リモンを通過、リモンを出てから暫くして米軍海軍が基地を持っているとすれば可能性が一番高いと言われる地域のカフイータ国立公園に行き、そこで元漁師でドライバーの知り合いにこの付近で米軍の姿を見かけたことがあるかその他米軍の情報提供を依頼したが全く聞いたこともないという。
先住民の住むブリブリを通過しながらドライブの途中、彼自身が先住民族であるドライバー兼案内人のフリオ・マドリズからコスタリカの政治状況、社会問題の内情を聞かされ、理想とされる国でさえ全て完璧と言うわけには行かない事、どこの国にも色々問題はあるもの、と納得。パナマとの国境は川の上に架けられた古い鉄道線路の上を歩くか脇の細い車道を車で通るか2つに1つ。検問所で簡単なチェックが一応はあるものの日帰りの越境は無審査。国境沿いには川が流れているが川幅もさほど広くなく随所で船で国境を行き来しているらしく帰途、そんな有料渡し舟の往復している場所にも行ってみました(=写真)。パナマ側に自動車のタイヤを売る店があり値段がコスタリカより安く舟賃を払ってもパナマで買ったほうが安いとの事。川は浅く簡単に歩いても渡れそうなほどです。帰途、コスタリカの内陸辺境地帯を通り、周辺に固まって住んでいる先住民部落の集落を訪ね、先住民問題などについて説明を受けました。
9月12日(水)裁判所で開廷中の法廷見学。
9月13日(木)サンラファエロ・デ・アラフエラにあるLa Reforma(エレディアにある極悪人を収容しているというREFORMA(刑務所))を視察。
感想
1)紛争の絶えない中南米地域の小国が非武装中立を貫いていけるのは親米政府の元で人口が僅か477万人(IMF2013年推定)の小国だから可能なのだ、
2)コスタリカに米軍基地が無いのはコスタリカがアメリカの裏庭の位置にあり米軍は駐留する迄も無く直接本土からいつでも出動できるからだ、と言う人がいます。
コスタリカを経済的に小さな発展途上国とみなし経済的小国だから非軍備も可能であると言いコスタリカを見下すのは簡単かも知れませんが、果たして経済力が小さい国ならば軍備は不要なのでしょうか?
日本とコスタリカの違いは、地政学上の差でも近隣諸国からの脅威の差でも経済規模、人口規模の差でもなく強いて言えば歴史的国柄、平和に徹する覚悟の有無の違いにあります。
日本国憲法の第12条や第97条にもあるように自由・権利、基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって国民の不断の努力によって保持しなければならないものです。民主主義も平和も物質以上に時間と共に劣化が進みます。 “形あるもの必ず滅びる”のが「世の理(ことわり)」ですが形の無いものは劣化が目に見えない分、一層静かに劣化が進行するものです。
だからこそ絶え間なくこれを磨き続けていかなければいけないのですが、自公連立の安倍政権は劣化を放置するどころか自身が劣化に拍車をかけています。コスタリカから学ぶべきは、不完全とは言え政府自らが先頭に立って戦争を頂点とする暴力を排し、個人の基本的人権を護るため権力の威圧的な態度、押し付けや抑圧的政治姿勢を極力排そうと実践し指導・矯正する継続的努力です。
コスタリカでは国会議員の連続再選は禁止され、政治家は政治を稼業に出来ない仕組みになっており地区比例代表制を採って民意を出来るだけ議席に反映しています。女性立候補者数も一定割合を超えないと選挙は有効に成立しません。コスタリカをアメリカにべったりでその庇護の下で生き延びている小賢しい国、と見下している人々も大勢いますが、 “アメリカべったり”なら日本は世界中のどの国にも負けません。
コスタリカはアメリカとだけ仲が良いのではなく中南米諸国とも程度の差はあれ友好関係を保っています。世界中のどの国とも経済体制を越えて仲良くするのが何でいけないのか。最後に偶然にも9月15日の独立記念日の前日の帰国日にホテルから空港まで送ってくれたタクシーの40代と思われる運転手が、運転しながら車中で私の質問に答えてくれた会話を紹介します。
質問:観光収入はコスタリカの外貨獲得上、最重要であり最大の観光客はアメリカ人と聞いているが、もしアメリカがコスタリカに再軍備を要求したり米軍基地の設置を要求して来たらコスタリカはどうしますか。これを断ればコスタリカの経済的損害は大きいだろうし、特にあなたの今の仕事などは大打撃を受けると思いますが?
回答:仮にアメリカからそんな脅かしを受けてもコスタリカ政府は断固断るべきと思う。経済的にどんな不利益をこうむっても仕方ない。自分の娘は15歳になるが生まれて以来兵隊の姿を見たことが無い。これからもコスタリカは軍隊、米軍基地、戦争を絶対に許してはならない。
経済的利益や自分達の利権を最重要の国益と考えてネオコン、新自由主義的アメリカに言われるがまま追随している日本と比較して何とコスタリカ庶民の考えのしっかりし、民主主義・平和主義が根付いている事か。
コスタリカの理想の実践を矮小化して事実を確かめもせずに誹謗中傷する人々のいい加減さに忌々しさを覚えるとともに彼らに真実を伝えなければいけない、との使命感を一層感じさせられた今回の検証旅行でした。
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