今日出海著―中公文庫―から
敗戦間際のフィリピン・ルソン島の前線の様子が生々しい。
いくら美化されても10万人以上の日本敗残兵がいたフィリピン戦場は狂気の世界である。
―以下本文から一部引用―
「集成飛行隊の長野大尉がお見えになりました」
当番兵が扉の外でいう。
「おお、今頃何しに来たか」
戸口で軍人らしく礼をして入ってきたのは、まだほんの二六,七の青年将校である。
「参謀長殿、えらいことになりました。」
この集成飛行隊の通信機は、打信は出来ぬが、受信は出来るために山中にある唯一の耳として重宝がられていた。
「ムッソリーニは捕縛処刑されました。
そしてヒットラーは戦死したと言うことであります」
「ドイツは降伏しました」
今や袋のネズミ同然で、ただ米軍の包囲網が狭まって、鷲掴みにされる日を待っている我々に、このニュースは不吉だった。
人々は皇軍がどんなに規律正しく、武士道的精神を堅持して戦っていたか、新聞や雑誌に載っていた佳話逸話で御存じで、私とて一片の疑心も持っていなかった。
しかし一度敗れて山中に入ると、毎日毎日街道を三々五々汗と埃と垢に塗れ、戦線を脱落し、原隊から離れた落人の群れを私はイヤになるほど見ている。
彼らはひもじくなれば、カッパライをしても食を探し、野宿をしては山中の諸処をさまよい歩く。
これが皇軍のなれの果てとはどう見ても思えない。
また彼らに一宿一飯の喜捨を施すものとてないのだ。
どの部隊でも厄介乞食が来たように、ニベもなく彼らを追い払うのだから行き倒れにならざるを得ない。
中には発狂して、調子外れな声で軍歌を絶叫し、又白日に哄笑して路端に素っ裸で座っている悼ましい姿を、私は幾度か目撃したものだ。
―以上引用終わりー
護憲野党による政権交代が実現しない限り、日本は戦争に巻き込まれ女性も徴兵される。
今は政治に無関心で選挙で投票に行かない若い女性にとっても明日の我が身だ。
2023年7月26日 記
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百田尚樹にこの文章を読ませてやりたいです。
周辺情報1)仄聞するところではこの御仁は、今の自民党をLGBTに対してぬるいと怒って新党を立ち上げるとか。
周辺情報2)彼は数年前の雑誌『SAPIO』で「高校で漢文を教えるのをやめるべきだ」と主張していました。「日本人」の来歴を知らぬ(「日本人」なるものがどれほど漢文に負うているかを知らぬ)輩が、『永遠のゼロ』を始めとするベストセラー本の作家とは、世も末です。